AllisPossibleIfOnedesires

MasashiSalvador(在日東京人) / 茶道 / 音楽/ 映画/ 雑記

トランスヒューマニズム: 人間強化の欲望から不死の夢まで (7/200)

シンギュラリティは近いだの何だのとシャレでは言ってみたり、前の会社の社長が東洋経済の記事を見て全社の前で「AIに仕事が奪われるぞ」と宣っているのを白い目で見たりと、プログラムが人間を超える的な考え方とは一定の距離を取り続けて生きてきているわけですが、単に巷で言うAI(バズワードになりすぎていて、そろそろ死につつあるだろう)ではなく、人体の拡張であったり、人間の不死化であったり、心のデータ化、精神をネットワークにアップロードしようとする試みだったり、死を超越したり、ネットワーク越しに意識を偏在させることを可能にしたりするテクノロジーには確かに夢があるわけです。そういった人間を超えていく試みを真面目に取り扱った書籍を見つけたので読んでみようということに。

いつか訪れる約束された死の基に人が生まれてくること、そしてそれを回避しようと死を避ける少ない可能性に賭ける少数の人々の試みに感極まり少し泣いてしまった。

トランスヒューマニズム: 人間強化の欲望から不死の夢まで

トランスヒューマニズム: 人間強化の欲望から不死の夢まで

シリコンバレーを席巻する「超人化」の思想 人体冷凍保存、サイボーグ化、脳とAIの融合……。 最先端テクノロジーで人間の限界を突破しようと目論む「超人間主義(トランスヒューマニズム)」。 ムーブメントの実態に迫る衝撃リポート!

目次

  • システムクラッシュ
  • 出会い
  • 訪問
  • ひとたび自然から出てしまえば
  • シンギュラリティについてひとこと
  • トーキン・ブルース―AIによる生存リスク
  • 最初のロボットについてひとこと
  • ただのマシン
  • 生物学とそれに不満を抱く人々
  • 信仰
  • 死を解いてください
  • 永遠の命のキャンピングカー
  • 終わりと始まりについてひとこと

気になったところ

全体として、お話としては面白いし、語り口的に目の前である種の狂信者的人間が語っているような「身近さ」「リアリティ」を感じることができる書籍だった。 感情を司る神経を直接撫でられる感じがなかなかに心地よい書籍。個人的にはジャック・アタリ的なトランスヒューマンと、本書のトランスヒューマンが混ざり合う境界面を見てみたいような気がする。 テクノロジーにより極めて利他的に振る舞うことができるようになる人類。果たしてそれは幸福の運び手だろうか?

友好的なAIの開発について

友好的なAIを人類がいかに開発できるのか?という問い。AIなんてものはまだこの世に存在しないわけだけれど(それ故、ブログ著者はシンギュラリティについては懐疑的である)、アルゴリズムが人間に対して 必ずしも友好的に振る舞い続けるかどうか?に関しては世界はもう少し考えてもいいような気がした。AIの危険性に警鐘を鳴らす人たちは本書で「核兵器並みに危険性のあるテクノロジーに対して防御が少なすぎる」 と述べるのだが、「核兵器並みに危険度の高いテクノロジー」の満たすべき性質ってなんだろうと少し考えてみた。 ・使用することで大量の人の命を奪う可能性がある ・影響が時間軸に対して限定的でなく、世代を超えて脅威が伝達される可能性がある ・上記に加え、環境に対して修復不能な不可逆なダメージを与える。

マインドアップロードなどの技術に関して

Nectome社のやっている技術などの話。死ぬ前に脳を保存液に浸す保存液に浸された人は死ぬ。将来サイボーグとして復活するためにこのような手段を取るのだ。 古典ではあるがこの本などに精神転送、マインドアップロードについては記載がある。 https://www.amazon.com/Beyond-Humanity-Cyberevolution-Future-Minds/dp/1886801215 将来蘇るために未来の技術に自分を託すという選択をする人がごく少数ではあるが存在するということに少し心が震える。自分がその選択肢を提示されたとき、死を選ぶだろうか、それとも保存されうることを望むだろうか。 保存施設に保存された脳が世代を超えて守られる絵というのも神秘的である。幾重にも張り巡らされた予備電源....警備員や脳の状態をモニターするシステムにどれほどのコストが掛かるだろう?

社会運動としてのトランスヒューマニズム

トランスヒューマニスト党ではないが「国は不老不死を実現するための研究開発に投資すべきだ」という主張はあながち的外れでもないと思う。 例えば日本の悪名高い詐欺年金のような支給されない破綻した仕組みを延命するためにごまかしを重ねるより、潔く年金を廃止し、同じ量の資金を不老不死の研究に投資したほうが社会としては 健全なのではないかと思うが。どうなのだろう。