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MasashiSalvador(在日東京人) / 茶道 / 音楽/ 映画/ 雑記

もっとソフトウェア的/手触りのある金融を目指して

※この記事は、MDMゆく年くる年2024 (アドベントカレンダー)3日目の記事です

お初にお目にかかる方も多いと思います。

三井物産デジタル・アセットマネジメントのCPO/CTOのサルバと申します。社内のソフトウェアプロダクトを統括しています。ここ数年はALTERNAオルタナ)の立ち上げとグロースに関わることが多いです。

オルタナ

ソフトウェア的/手触りのあるってなんだ

わたしは2011年にMarc AndreessenがWall Street Journalに寄稿した”Software is eating the world”(https://a16z.com/why-software-is-eating-the-world/)という記事がとても好きです。ソフトウェアが基盤となっていく世界を個人のレベルで好もうと好むまいと、クラウドコンピューティング(そして現在は大規模言語モデル)以降の世界はソフトウェアが様々な事業領域を作り変える大きな流れの中にいます。

もちろんソフトウェア化がもたらすのは善だけではありません。けれど、10年前、20年前に比べると確実に手元にあるモバイルデバイスで個人ができることは増えていて、日々恩恵を受けています。ChatGPT Searchで調べたところ、2014年にはスマホの普及率は40%、2024年現在は97%のようです。

かつては(10年ほど前)は実家の母が手作りの製品をネット販売するためのサイト構築(時折データが「何もしていない」のに全部吹っ飛んだりする。直すために散らばった写真フォルダを漁らないいけないのだ!)を手伝うのも一苦労でしたが、いまでは誰でもオンラインストアを開けるサービスなどが普及していて、これなら手伝わなくても大丈夫だ、と思えるようになりました。細かな動作原理がわからなくとも、「触って分かる」状態=「手触りがある」状態に近づいた故でしょうか。

ギークのものだったソフトウェアが多くの人に開かれ「これなら母でも使えるかもしれないな」と思えるくらいの手触りを持っていることは大変良いことで、自分が恩恵を受けてきたその「良さ」を世の中に還元していきたい、という思いがベースにあり、ソフトウェア作りをしています。

ALTERNAはソフトウェア的な良さと手触り感の両立を目指しながら開発をしています。ソフトウェア的な良さとは

  • 誰でも、どこでも、いつでも、サービスの価値を手に入れることができる
  • スケール性がある=サービス規模の拡大と共にコストがマシマシにならない=顧客に低コストでいいサービスを提供し続けられる
  • サービス改善の速さ、データを下にした製品・サービス開発

であり、手触り感は上記の通り、「良さ」が(詳細まですべて分からなくとも)肌で感じられるということだと思っています。

リアルな店舗の話でいうと、入店すると製品が並べられている、手にとって「いいな」と思ったらすぐに買える。そのような良い購買体験をソフトウェア上で表現できないか、ということを考えています。ALTERNAではそういう「手にとって、買う」ような体験を実現するために、(何日もかかる可能性のある)口座開設の前でも商品への仮申込ができる機能を提供しています。

金融領域で「手触り」を実現するためのトライアンドエラー

手触りの多面性

とはいえ、金融で「手触り」を実現するのはそんなに簡単なことではないというのがリリースからここまでの大きな学びでした。突然話は変わるのですが、わたしは茶の湯を10年ほどやっておりまして、まだ駆け出してではあるものの茶道具を購入することがあります。

茶道具はそれぞれ一点モノですし、モノであるが故に「触って分かる」ことがたくさんあるし、逆に言うと「触らないと分からない」部分がたくさんあります。重さ、手取り(手に取ったときの重さの質感)、色合い(照明条件で変わる)、温かみ、濡れたときの雰囲気の変化(購入しないと塗らせない)、茶映え(お茶が入ったときの見栄えの変化)、などなど…。

お気に入りの茶碗

「手触り」というのは多面的ですし、逆に言えば、多面的であるがゆえにより立体的に感じられるものです。手に入れる前にも手触りの一端を感じることができ、手に入れた後は独特の手触りをさらに感じたいがために別のモノが欲しくなるという「手触りループ」のようなものがあります。、

(※MDMは茶道具商ではないので割愛されました)

手触りループのプロセスは「目利き力」が上がってくることによるところが大きいと思っていて、金融商品でも似たようなところがあると感じています。単なる情報として提示するのではなく、多面性を持たせることで、スマホ/PC越しであっても「手触り感」を伝えられればいいなと思っています。

実査(物件を見に行く)をソフトウェア開発メンバーも積極的に行っていますが、物理的に見ることで分かることもあるので、投資家の方向けに物件ツアーを開催したいねという話はチーム内で上がっています。また、画面上でもGoogle Earthを使って物件を俯瞰的に見ることができるようにしたり、ホログラム(ややSF的ですが)で表示できるようにできたら面白いかもしれません。

トライアンドエラーは難しいが、面白い

デジタル証券を販売するサイトであるオルタナはソフトウェアなので、小さく作って改善を繰り返すというソフトウェア的な作り方ができるのですが、掲載している商品は金融商品であり、スキームのようなポータブル(一度作ると横展開できる)な要素と、裏付け資産のような一点モノ的な要素があります。どちらの要素も、(ある意味当然ですが)ソフトウェアほど小さく作るのが簡単ではありません。

スタートアップ的なソフトウェア開発でいうと、MVP(https://blog.crisp.se/2016/01/25/henrikkniberg/making-sense-of-mvp)をつくて顧客(ALTERNAの場合は投資家)にプロダクトアウト的にぶつけてみて、小さなトライを繰り返して作りたいところなのですが、「使用/利用」できるものではないので、相対的に見ると、モノや一般的なサービスほど顧客からのフィードバックが得られるわけではありません。

金融商品を「小さく作る」ことの難しさの解像度が低かった頃は、テストマーケ的なもので探索的にニーズを把握しながら出たとこ勝負!をしようとしていたのですが、一年半ほど運用してみて、その方式だと難しいことが分かってきました。

そのため、よりマーケットインのアプローチができるように、ALTERNA内外のお客様にヒアリングを実施し、ニーズを把握する、コンセプトのテストをするような試みも社内で行われています。トライの数が改善と成長の角度を高めることになるので、小さく作る限界を把握しつつも、それでもミニマムに作る(=検討に時間をかけすぎない)ことへのチャレンジが、金融領域のスタートアップとしてのMDMの面白さであると思います。

ソフトウェア的な速さが十分に出せる領域ではクイックに試し(オレンジ色の領域)そうでないところは限界値を把握しつつ、適切な速度で世の中に出していく。この意思決定の難しさと面白さが常について回ります。

手触りの良さ、面白さでモチベーションを拓いていくために

オルタナの立ち上げ当初は「右脳で分かる」などとチーム内では言っていましたが、黎明期であるデジタル証券をより広めていくためには、先の図でいうところの「モノっぽい要素」、「手触り感」は重要ではないかと思っています。

投資検討自体は多分に左脳的な要素で、リスクとリターンのバランスを自己判断しなければいけないわけですが、モチベーションを開くきっかけとして右脳の要素=手触りの良さや面白さが働くと思っています。

自分は20代後半ぐらいまで投資/資産運用は面倒なものだと思っていましたし、得をしようとするにしろ、損をさけようとするにしろ、時間を割いて検討するのは疲れることだと思っていました。疲れる、やらない、=やらないといけない気がすると義務感が生まれ、さらに疲れる、結局やらない、でもやらないといけない….こんなデモチループに陥っていたのです。

モノそれ自体には、「こんなモノに投資できるんだ」「このモノだったら大丈夫そうだ」という言葉で説明されるのとは別の説得力が備わっていると思います(わたしが真贋わからない茶道具を買ってしまうのもそのせい)。投資なので損得は言うまでもなく大切なのですが…、損得の世界だけにいると疲れ切ってしまうので、手触り(ときにはオフラインイベントによる運用者とのつながりも含め)の要素と合わせることで、より良い投資体験を作って眠れる銭をアクティベイトしていきたいと思っています。