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MasashiSalvador(在日東京人) / 茶道 / 音楽/ 映画/ 雑記

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史 (5/200)

歴史から学ぼうという機運が最近あり、各種発明が人々の世界に対する認識をどういうタイムスケールでどのように変化させたのかを知るために図書館で借りてきた本。 ちなみに書評書く書く詐欺と化しており、書評積読(なんだそりゃ)的なものが積まれ続けている。 最近思うのはまとまった移動時間があることは有意に読書時間にきよするなぁと(高校の頃は一日山手線に乗って本を読んだりしたものである)

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

世界をつくった6つの革命の物語 新・人類進化史

リビア砂漠で旅人がガラスにつまずかなければ、 インターネットはなかったかもしれない。 ガリレオが教会の祭壇にみとれなければ、 正確な時間は生まれなかったかもしれない。 ネアンデルタール人が洞窟の音響効果に気づかなければ、 ジミヘンの音楽は生まれなかったかもしれない。

「ガラス」「冷たさ」「音」「清潔」「時間」「光」――。 これら6つの大発明に寄与したのは、 ガリレオエジソンといった偉人だけではない。

むしろ、名もなき市井の人びとが、 目の前にある問題に懸命に取り組むなかで 予想外に生み出されてきたのだ。

先人たちにとっての「ぜいたく品」が、 現代を生きるわれわれにとって「あたりまえのもの」になるまで、 どのような苦労があり、どんな奇跡が起きたのか――。 本書は、まったく新しい発明を切り口にした、 まったく新しい世界史の物語である。

目次

  • ◆序章 ロボット歴史学者とハチドリの羽 ハチドリの羽はどうやってデザインされたのか?/世界を読み解く「ロングズーム」
  • ◆第1章 ガラス ツタンカーメンコガネムシ/ガラスの島/グーテンベルクと眼鏡/顕微鏡からテレビへ/ガラスで編まれたインターネット/鏡とルネサンス/ハワイ島のタイムマシン/ガラスは人間を待っていた
  • ◆第2章 冷たさ ボストンの氷をカリブに運べ/氷、おがくず、空っぽの船/冷たさの価値/氷によってできた街/人工の冷たさをつくる/イヌイットの瞬間冷凍/エアコンの誕生と人口移動/冷却革命
  • ◆第3章 音 古代洞窟の歌/音をつかまえ、再生する/ベル研究所エジソン研究所/勘ちがいから生まれた真空管/真空管アンプ、大衆、ヒトラー、ジミヘン/命を救う音、終わらせる音
  • ◆第4章 清潔 汚すぎたシカゴ/ありえない衛生観念/塩素革命/清潔さとアレルギー/きれいすぎて飲めない水
  • ◆第5章 時間 ガリレオと揺れる祭壇ランプ/時間に見張られる世界/ふぞろいな時間たち/太陽より正確な原子時計/一万年の時を刻む時計
  • ◆第6章 光 鯨油ロウソク/エジソンと“魔法"の電球/“天才"への誤解/ピラミッドで見いだされた光/スラム街に希望を与えたフラッシュ/一〇〇リットルのネオン/バーコードの“殺人光線"/人工の“太陽"

  • ◆終章 タイムトラベラー 数学に魅せられた伯爵夫人/一八〇年前の“コンピューター"/隣接可能領域の新しい扉

全体を通して

世界に影響を及ぼした発明の誕生にまつわる経緯、その波及効果を読み流すだけで好奇心がくすぐられる。 今の世界の常識が短い歴史しか持っておらず、人の世はかく移ろいやすく、新奇な物は常にはじめは否定され、乗り越えたものだけが世界を変えうる。 重要な発明は一人の天才によってなされるのではなく、あくまでもあるネットワークの中で生み出されるという事実が歴史により証明される。 極めて初期の一歩は未踏で、それ故批判にさらされるが、乗り越えさせるのも発明家の気概次第だ。

章ごとに気になった箇所

序章

植物の有性生殖戦略が最終的にハチドリの羽のデザインを決める。花は花粉を昆虫に知らせ、昆虫は花から花粉を取り出して受粉させる。長い期間の共進化が、骨格構造に制限があるにもかかわらず、空中にホバリングすることができるというハチドリの飛び方を進化させた。イノベーションやアイデアが他の思わぬ分野に波及することを著者は「ハチドリ効果」と呼んでいる。グーテンベルクによる印刷の発明により人々の間に読書習慣が広まり、その結果人々が、自分たちがひどい遠視であることに気がついてメガネを買い求めるようになったり、それがレンズの生産を刺激し、最終的には顕微鏡の発明へとつながるなど。「ハチドリ効果」はあらゆるところに潜んでいる。

第1章 ガラス

ガラスはケイ素の結晶として偶然発見され、まずは装飾用途であった。ローマ帝国において、頑丈なガラスの製法が発見されて器やガラス窓に用いられ始めた。東ローマ帝国の滅亡、コンスタンティノープル陥落と同時に、優秀なガラス職人は海を渡りヴェネチア近辺に移籍することになり、現代のガラス、透明なガラスが誕生する。その後、メガネが発明され、写本をする修道僧の間で使われ始めた。庶民はメガネを全く必要としなかったが、グーテンベルクによる印刷の発明により、大衆娯楽としての文字表現(小説・ポルノ本)が広まり、人々が自分たちが遠視で有ることに気づき始め、眼鏡が爆発的に求められるようになる。 また、別の話として、鏡の発明と中流家庭への普及が、人々の自画像の捉え方を変えていった。

第2章 冷たさ

大航海時代の貿易というのは南方のものを北方へ持ち込み行為であった。お茶、スパイス、綿、サトウキビ、などなど、赤道に近い太陽のエネルギーをふんだんに吸収した土地、高エネルギー帯から高緯度地域=太陽の光の弱い低エネルギー帯への物資の還流である。しかし、氷は例外的にその逆だった。ボストン近郊の実業家フレデリック・テューダーは近くの湖から切り出してきた氷を南へ輸出しようと挑戦した。氷を船に積み、南方へと輸出するのである。当初その目論見は、熱帯地域の人々が初めて見る「冷たさ」の概念を理解できなかったため頓挫することになる。氷を世界中に売ることには失敗したが、氷により飲み物を冷やしたり食べ物を冷やしたりする習慣がアメリカ南部にも広まっていき、氷を買う=冷たさを買うという行為が一般大衆の間に広まっていくことになる。 冷たさの概念が広く受け入れられたあとは、人工的に冷たさを作り出す挑戦がはじまる。ゴリーによって真空ポンプにより冷たさが作り出せることが発見されたあと、同時多発的に「人工的に冷たさを作り出す」という考えは世界中に広まり始め、カレーにより製氷機が発明され、都市の中に共有の「冷蔵庫」的建造物が広まっていく。

地球上に波紋のように広がったこの人工冷却の特許は、イノベーションの歴史の中でもとりわけ興味深いものの事例であり、現代の学者は「多重発明」と呼ぶ。発明や科学的発見はまとまって生じる傾向がある。地理的に散らばっている数人の研究者が、たまたま独自に全く同じことを発見するのだ、ひとりの点差が他の誰も夢にも思わないアイデアを考えつくというのは、実は例外であって通例ではない。

時代は下り、イヌイットからインスピレーションを受けた瞬間冷凍のアイデアにより冷凍食品が生まれ、その後エアコンが大型ショッピングモールや娯楽施設に広まり始める。エアコンの発明は、別の発明に由来していた。湿気の多い夏にインクが滲まないようにする印刷機の改善は、印刷機の周囲の空気を冷やすという波及効果を生んでおり、労働者が、その涼しさ故に印刷機の周りでランチ休憩をとりたがるようになった。それが認知され、部屋を人工的に冷やす機構=エアコンの発明につながる。そして、第二次大戦後それは小型化され、暑すぎて人間が住むには適さなかった土地に人が住めるようになった。人口動態が変化し、そしてそれは政治にも影響を与えた。

第3章 音

音は人種、民族を問わず誰の耳にも伝達される事ができる。それゆえ、差別が今よりも遥かに横行していた時代にアフリカ系アメリカ人のセレブリティを生み出すことになる。真空管アンプの発明により、新しい政治活動が発生した。演説、大規模集会、そしてそれを悪しき目的に用いたヒトラーの台頭。

第4章 清潔

新しい概念を導入しようとすると既存勢力から強い反発を受けるということのいい例が描かれた章だった。特にそれが、生理的な感覚に紐づくものであるときに、抵抗の強さが増すように思われる。

センメルヴェルスは、ただ医師が手を洗うことを提案したから、冷笑され追放されたのではない。もし医師が同じ日の午後に分娩と死体解剖を行いたいのであれば、手を洗うべきだと提案したから、冷笑され追放されたのだ。

手を洗うこと、身体を洗うことが衛生的であるという観念はそれほど古くからあるものではない(日本においても貴族様方は身体を洗うよりも香を炊いてごまかすことに執心していた)。水道が身近でなかったというは確かに理由の1つではあるが、社会通念というのはそれほど単純ではなく、水に身体を浸すのは不健康であり危険であるという衛生観念が一般的だった。ローマ人は蒸し風呂を楽しんでいたというのに、中世ヨーロッパの貴族様たちはずいぶんと今で言う「清潔」を嫌ったらしい。

この章で最も面白いのは水道の塩素消毒に関する章だ。ニュージャージーの医師、ジョン・レアルによる給水設備の改善、水中の細菌の数が計測できるようになり、水質汚染を数値的に計測し改善のサイクルを細かく回せるようになった後の話だ。塩素、当時で言う「さらし粉」によって細菌を殺すことができることをレアルは発見したが、「薬品による殺菌という考え方が不快」という理由で当局から拒絶されることになる。しかしレアルは強い信念を持っており、当局から許可を得ずに、一般市民になんの告知もせず、貯水槽への塩素剤の投入を決定し実行した。塩素消毒が発覚した後はレアルは裁判で訴えられることになるが、毅然と自らの正しさを主張して最終的な勝利を勝ち取った。かれは塩素消毒技術の特許を取得することはせず、全米の自治体で塩素消毒は標準的手法として採用される。

第5章 時間

時計の大衆化、標準時の発展に関する章。少し薄め。

第6章 光

夜が長かった時代、電球のなかった時代、人々は長い夜を2つに分けて過ごしていた。標準的な睡眠時間が8時間とされたのは電球の発明の後の話である。エジソンがメンローパークに集めた「マッカーズ」と呼ばれる天才たちは、それぞれが独自の専門分野を持つ多国籍のチームであった。エジソンは失敗を許容し、実験を繰り返すことの重要性、そして現金ではなく株による報酬の支払いなど、チームを創造的にするための手法を多く考案した。エジソンは孤独の一人の天才ではなく、イノベーションネットワークの作り手であった。 電球の発明からフラッシュの発明、ネオンの発明、人工太陽=核融合の話へと話は展開されていく。写真のフラッシュの発明により、暗くて見えなかった貧民街に光が当たるようになり、見えないものが見えるようになったことで手が差し伸べられるようになる。最初のフラッシュが物好きな貴族さまによってギザのピラミッドの中でなされたという話は面白かった。