ひとり空間の都市論 (2/200)
2019年は読んだ本の読書記録をつけることにしたので、暇を見つけては整理して書いていくことにする。 (読んだ本、記録つけないとアホなので忘れちゃうしね)
読書の動機
東京という都市に住むにあたって、都市の中でどういうものが流行し、あるいはどういうものは廃れていくのかを考える上で都市と人間の関係について知るために本書を購入。 サウナにしろムーディーなバーにしろ、常時接続でいつでも他人の目を意識しなければ行けない日常の中で「ひとり」の行動はどう変わるのか、モバイルデバイスの普及とともにそのような「ひとり」の行動がどのように変化/進化してきたかを考えるきっかけにしたいと感じた。都市に人口が集約されていくことは経済合理性の観点から世界中で不可避の流れになると思われるが、テクノロジーは人間のどういう性質を、その性質によって引き起こされるどのような問題を、どのような形で解決していくのだろうか?
概容
同調圧力が強い日本社会における「ひとり」。彼らが異質な存在としてみなされる一方で、現実の日本の都市には、カプセルホテル、ひとりカラオケ、ひとり焼肉店など、ひとり客向けの商業施設が溢れかえっている。そもそも孤独と自由が背中合わせの都市生活では、「ひとり」でいることこそ、歴史的にも“正常”だったはずだ。今日ではさらに、「ひとり」が存在する空間は、モバイル・メディアの普及を受けて増殖し、新しい形態へと進化を遂げつつある。その新しい特性とは何か。「みんな・絆・コミュニティ」へと世論が傾くいま、ひとり空間の現況と可能性を、いまいちど問い直す。
目次
- 序章 『孤独のグルメ』の都市論
- 第1章 ひとり・ひとり空間・都市
- 第2章 住まい―単身者とモビリティ
- 第3章 飲食店・宿泊施設―日本的都市風景
- 第4章 モバイル・メディア―ウォークマンからスマートフォンまで
- 終章 都市の「ひとり空間」の行方
各章
序章 『孤独のグルメ』の都市論
- スーツ=生産者の記号をまとった主人公が都市の機能に依存しながら、都市の中でおひとりさまで食事を堪能するある種の都市論としての「孤独のグルメ」
- 社会分業 / 遊歩者 都市と個人化にまつわる現象
- 移動時間/スキマ時間の空間下=中間空間の台頭 / 遭遇期待値 < 検索期待値
- 主人公の行動は、インターネットがもたらした行動様式と対極である一方で、「つぶやき」やSNSへの画像共有的な類似性も持っている
井の頭に見られる、都市的生活様式とは何か。それは第一に、食という行為を都市の消費空間に外部依存していること。第二に、つねに移動し続けていること。第三に、周囲の人びとから匿名性を保ち、誰からも素性を特定されることなく、周囲を観察する技法を身につけていることである。 (南後由和. ひとり空間の都市論 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.172-175). Kindle 版. )
この視点で孤独のグルメを読んだことなかった。
その住まう様々な単身者、単身者だけではなく「ひとり」が利用する場所が集約された都市。 東京は他の都市に比べても「ひとり」向けの施設が多い都市なのだろう。
第1章 ひとり・ひとり空間・都市
- ひとりとは?
- 数的単位 + 状態
状態とは、ある時点における、人や物事のあり様である。状態とは、一時的もしくは中長期的なものではあるが、永続的なものではない。このことから、「状態としてのひとり」とは、一定の時間、家族、学校や職場などの帰属先の集団・組織から離れて、ひとりであるあり様を指す。たとえば、家族と一緒に暮らしている人でも、自分だけの時間が欲しくて、家族から離れ、「ひとり」だけで過ごす時間は、ひとりの状態である。携帯音楽プレイヤーの音源をイヤホンで聞きながら移動し、雑踏のなかで自分だけの世界にひたる時間も、ひとりの状態だ。(南後由和. ひとり空間の都市論 (Japanese Edition) (Kindle の位置No.425-430). Kindle 版. )
ルフェーヴルの空間分類
- 物理的な形態を伴う次元(実際の空間)
- 頭の中抽象的に思考される次元(設計図など)
- 人々が身体を介して1を「使う」「経験する」事によって2の意味を書き換え、新たな意味を付与する次元
ひとりの状態を介して経験される空間がひとり空間であり、ひとりになることによってたち現れる空間の事を言う。 ひとり空間には建築的側面(物理的空間的な特性)と「使う」・「経験する」側面が存在する。
ジンメルの論考によれば、都市の住民は変化の激しい都市から絶え間ない神経的刺激を受け続け、「都市の作法」=「都市の刺激や変化から距離を取り、没個性的で非人格的な存在として他者と接する態度」を身につけるとした。 お互いにお互いを見知らぬ他者と考えるという点では「匿名性』を持っていると言える。
こう言われると、満員電車など公共空間でスマホをいじることは刺激から距離を取るための人間の自然な行動なのだなと理解できる。 (スキマ時間を潰したいとかではなく)、歩きスマホもおそらく、あるきながらにして都市の刺激から距離を取りたいという欲求から自然に出る行動に思える。
ジンメルはお互いに「匿名である」人々がお互いを信頼に足るものとして生活を営む上で、 * 貨幣経済 * 時間的正確さの遵守 という計算可能性が大切だと論じたらしい。
同じロジックをブロックチェーンにおける、計算(可能性)による「信頼」の創出/担保という話に持っていけないのかなとふと 都市がもたらす「ひとり状態」はしがらみからの解放という「自由」をもたらしている。 「ひとり状態」は精神的な距離を取ることによって生まれる。
都市において「ひとり空間」を手に入れるためには、ゴローちゃんのように外部サービスに依存せざるを得ない。
第2章 住まい―単身者とモビリティ
- 方丈庵 / 自分の姿を隠したまま周囲を視ることのできる空間
- 住まいのモビリティ
- 見せる個室への変化
第3章 飲食店・宿泊施設―日本的都市風景
- 個室の商業空間の増殖
- 極小空間にみる畳の美学
- メディアを介したひとり空間
- メディアを利用することによる「見えない仕切り」
- スマートフォンがもたらした「ひとり空間」の変化
- 見てほしいように見られているか不安 / SNS映え / 相互監視 / ひとりになりたいという切断志向
- パーソナライズする / される世界
- 私 -> 情報 < 情報 -> 私
- 情報空間の商品化
- 匿名性と異質性の減退
- フィルターバブルにおる同質性
- アーバニズムの条件としての「異質性」の減退
- マッチング精度向上
- 検索可能性> 遭遇可能性 ( memo : 検索可能性という意味でも同質性は高まっていると言えそうだ)
- 浅く広い連帯感
- たまり場の概念の変化
- 中間空間の成長
終章 都市の「ひとり空間」の行方
- 消費を媒介することでしかつながらなかった「ひとり」同士が「生産」に媒介された結びつきをもち「匿名的・一回性」な関係から「顕名的・持続的」な関係にシフトしうる可能性
- スキルを持つもの / 持たざるものの格差の発生、関係は引き続きいつでも解消可能